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横浜にぎわい座は、落語、漫才、大道芸などの大衆芸能の専門館です。

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桂歌丸~第8回 会長として・館長として

 

会長として
 2004年(平成16年)には落語芸術協会会長に就任した。この頃から芸術協会には若手が活発に自分の考えを述べる雰囲気が生まれている。歌丸は会長の心構えとして、さまざまな意見をよく聞き、口出しはあまりしない、しかし最終決断はしっかり行うように努めた。その結果、会員が自由に意見を出し合う、なごやかな雰囲気が協会内に満ち、協会全体が若返りを見せて活気づいた。その顕著な例として、2007年(平成19年)に始まった「芸協らくごまつり」が挙げられる。この催しは、芸術協会の事務所がある芸能花伝舎で毎年趣向を凝らして開かれている。芸能文化活動の拠点である花伝舎は閉校した東京・西新宿の淀橋第三小学校の校舎を活用して運営されており、校舎や体育館、校庭を使った「らくごまつり」ではさまざまなイベントや落語会が開かれる。訪れるファンは毎年5000人ほど。落語家を始めとする芸協所属の芸人との触れ合いを楽しんでいる。
 
 あたしが思うに、会長っていうのは、あれこれ口出ししちゃいけないんだと思います。会長が口を出すと「命令」になっちゃう。今はもう「命令」で動く社会じゃないですから。みんなで話し合ってやっていくしかないんですが、それはそれで、やりにくい面もあります。大勢の人間がいて、ましてや噺家は個性の強いのばっかりだから、なかなか話がまとまらない。結局多数決ということになるんだけど、それでも不満は残りますよ。(『歌丸 不死鳥ひとり語り』)
 
 最後の決断や責任を負うのは会長です。白刃の上を裸足で歩くような思いをすることも少なくありません。だから、よく楽屋でみんなに言うんです。「わたしの言うこと聞かないなら、明日から会長にしちゃうぞ」って。(『座布団一枚! 桂歌丸のわが落語人生』)
 
  (はなし塚まつり 副会長時代)
 
館長として
 2010年(平成22年)には玉置宏初代館長の逝去を受けて当館の二代目館長に就任する。その際、「前館長の意志を踏まえ、演芸演者の皆さんが誰でも出演でき、お客様方が満足するような寄席番組にも配慮していく所存でございます」とコメントした。都内の寄席は落語協会か落語芸術協会に所属していなければ基本的には出演できないが、そのような協会の垣根を越えた芸人の交流を盛んにしたいという思いとお客様本位の劇場でなければならないという考えが表明されている。
 
 あたしはよく言うんです。何にもわからないようなお客が、どんどん来るようじゃなきゃダメなんだって……今日の客はやりにくいなって、いうようなお客が来てなきゃダメなんだって、言うんですけどね。そういうお客を、こっちへ引っ張りこむようでなけりゃ、プロの噺家じゃない、芸人じゃないと思うんです。(『歌丸 極上人生』)
 
 自身に対する戒めとも取れる「おもしろいかどうかはお客様が決める」という発言もしている。
若手芸人たちには研鑽を積む道場として当館を活用してもらい、「にぎわい座から未来の名人上手を出したい」という願いも抱く。これは「落語と落語ファンを後世に残したい」という、歌丸がそもそも公立の寄席設立を求めた原点に結びついている。「落語を始めとする寄席芸能はテレビのお笑いにはない奥深さがある」という自負もある。この発言には演目の取捨選択をすることが落語家には求められているという考えによって成り立っている。
 戦時中、「時局にそぐわない」と見なした落語を落語家自身が封印した「禁演落語」をテーマにした公演を当館でも行いたいと公演担当者が願い出た時、歌丸館長はそれを即座に却下した。禁演落語とされた演目の中には現在、普通に演じられているものもある一方、ほとんど演じられていないものもある。禁演落語をテーマにした場合、珍しい演目を取り上げたくなるのが人情だ。しかし、それらの演目の半数は時流に合わなくなった廓噺で、残りは下ネタだ。それをわざわざ取り上げる必要があるのかという指摘があった。禁演落語だけでなく、古典落語には、差別が助長されている演目や不道徳極まりないものもある。それらは見極めをつけて捨てなければならないと歌丸館長は思っていた。『おすわどん』『鍋草履』『辻八卦』『小烏丸』などの演目を復活させた歌丸館長は、その演目の是非を厳しく見定めていたことが理解できる。
 歌丸館長の指摘やアドバイスは端的で鋭い。細かく、くどくどと説明はしてくれないので発言の真意を聞き手があれこれ考えなければならない。これは歌丸館長自身がそのようにして今輔師匠などの先人から教わってきた体験に基づいているのだろう。人を育てる基本がそこにはあると感じる。

 

 
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