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第9回.落語道邁進

 

「笑点」の顔
 2006年(平成18年)、「笑点」の五代目司会者となる。以後、10年にわたって番組を盛り上げて番組を勇退。終身名誉司会者の称号を与えられる。放送開始から50年以上、番組を支えてきた功績によるものだ。逝去にともない、永世名誉司会者となり、「ミスター笑点」とたたえられた。歌丸の生涯を語る時、「笑点」は欠かせない存在だが、落語に専念できるのかという忠告を受け、思い悩むこともあった。立川談志から「『笑点』は早くやめろ」と言われた時には先代圓楽に相談をした。「番組は番組、落語は落語でしっかりやればいいんだから」という明快なアドバイスを受け、真摯に落語に取り組み続けた。
 
落語道邁進
 観客の立場から歌丸の高座を振り返りたい。都内の寄席でトリ以外の出演を拝見したこともあるが、いつも全力投球で、おざなりな高座は拝見したことはなかった。熱のこもった高座という印象が強い。マナーの悪い観客に対しては高座からいさめることもあった。高座に集中せず、しゃべっている客がいた。「私はお芝居もよく見に行くのですが、ああいう所でも、団体さんなどにお芝居が目的なのかよく分からない方がいらっしゃいます。せんべいを取り出して、みんなに渡して食べている。その音のうるさいこと、にらみつけてやりました。そしたら、目が合って『あっ、歌丸さん、おひとつどう?』って私も頂いちゃったんで、文句が言えなくなりました」直接的にしかるのではなく、笑いに替える手法を取るのが歌丸らしかった。しかし、その高座姿はマナー違反の客に対する怒りが伝わるものでもあった。
 当館においては、圓朝ものの長編人情噺の連続口演、『小間物屋政談』『髪結新三』などの人情噺だけでなく、『壺算』『つる』『尻餅』『小言幸兵衛』『厩火事』などおなじみの滑稽噺も演じている。明るく、色気があり、聴きやすい高座で観客を魅了した。
体調を崩しがちになり、車椅子の生活から、酸素ボンベの助けを借りるようになり、ついには高座でも酸素ボンベをつけて口演という形になってしまうのだが、高座での気迫に衰えはなかった。だから、体調不良による公演中止があっても、病が癒えてからの高座に期待する観客がほとんどであり、晩年まで人気にかげりは見えなかった。
 当館での最後の高座は2017年(平成29年)10月30日「小南治改メ三代目 桂小南襲名披露公演」だった。実は同年12月11日の「年末恒例 歌丸・円楽二人会」にも出演が予定されていたが、病状が悪化し、三遊亭小遊三が代演をつとめた。しかし、その後、復調し、翌年4月の国立演芸場中席公演では恒例のトリをつとめ、連日『小間物屋政談』を40分かけて熱演した。低気圧が近づくと体調が悪化すると話していたが、それでも充実した高座を続けた。その後、再び入院を余儀なくされるが、必ず復帰するだろうとだれもが信じていた。しかし、病態は思わしくなく、7月2日に逝去された。

 

当館の出演記録から
 歌丸は当館に101回出演している。そのうち10回は「名作落語の夕べ」での館長挨拶やトークのみなので、それを除くと91回にわたり出演したことになる。
 滑稽噺で公演回数が多いのは『長命』6回、『火焔太鼓』『竹の水仙』『井戸の茶碗』の各5回。『長命』は世間的には『短命』で通っている演目だが、八代目三笑亭可楽は『短命』の名を嫌って『長命』で演じていた。それを歌丸は前座時代に聞き、こんなに面白い噺があるのかと感動し、可楽の弟子の夢楽から教わった。
 
 艶笑落語、いわゆる「バレ噺」といわれる種類のネタなんだけど、中身は結構ソフトで、隠居さんと八五郎が「指と指がさわって」なんていいながら顔を見合わせる程度の描写がほとんどですよ。それでも隠居が「短命だろ?」を繰り返すところをくどく演じると、いやらしい噺になってしまう。だから、あたしはなるたけサラリと演じるように心掛けています。(『歌丸 不死鳥ひとり語り』)
 
 当館の出演記録を見ると、真打昇進披露公演や襲名披露など祝いの公演に助演で出演した際に演じられる傾向がある。演目通り、その公演の主役演者にも長く芸人人生を続けてもらいたいという願いが込められている。
 『火焔太鼓』の強い女房と尻に敷かれる亭主は歌丸の面目躍如たるものがあり、サゲ間際でその立場が逆転するのも痛快。ちなみに女房の名を自身の妻女の名である「富士子」としているところもご愛嬌。『竹の水仙』は神奈川宿が舞台となっている。これは他の演者にはない設定。宿場から見える海の景色やサゲの「わしはもう、二度とあれ(水仙)はこしらえない」「どうしてです」「竹に花を咲かせると寿命が縮む」は歌丸オリジナル。どの演目にも深い思いが込められており、観客を強く引き込む力を持っている。
 
桂歌丸(かつらうたまる。本名=椎名巌)落語家。1936年(昭和11年)8月14日- 2018年(平成30年)7月2日。81歳。
 

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