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玉川福太郎~第8回 木村八重子師匠と木村友香師匠

 

木村八重子師匠と木村友香師

 福太郎は滝とよ以外の名曲師にも世話になっている。木村八重子は初代東家浦太郎や二葉百合子を弾いて浦太郎節や百合子節を作り、関東節を弾かせたら日本一、名人と言われた人物。その八重子の晩年に草津のホテルのショーで半月ほど弾いてもらったことがある。三味線で導いてくれて、おもしろいほど浪花節を語らせてくれた。自分が急にうまくなったような気になり、これが曲師の腕なのだと感じた。
 第二期浪曲黄金時代を築いた初代木村重友の相三味線で、重友節を作り上げた功労者、木村友香にも弾いてもらったことがある。声が自然にわき出て、豪快さの中に繊細さも感じられる節まわしを自在に操ることができた。尽きることのない声量で大音を張り上げる木村派の関東節が若々しい福太郎の声によって再現された。

節の未熟な者は上手な三味線の師匠に弾いてもらう、三味線の勉強中の者は芸の達者な浪曲師にリードしてもらって腕を磨く。これは三味線を使う芸能は皆同じだと思いますがね、こういう名人と出会うことができて、弾いてもらって、私は幸せな、今までの浪曲人生でした。 (「浪曲に風が吹く」)

 
夫唱婦随の稽古
 このような名曲師との体験から三味線の重要性を知っている福太郎は曲師が高齢化し、減っていくことに危機感を持っていた。1976年(昭和51年)に木馬亭で「浪曲三味線教室」が始まると、みね子にも参加してもらったが、前述のように順調には上達したわけではなかった。

ある劇団の団員さん、OL、学生、アマチュアで浪曲うなっている人のおかみさん、などなど二十人も集まりました。その中に私の女房も入れてもらって、二ヶ月もたった、ある時、この教室の先生、山本太一師匠がね、「福ちゃん、お前んとこのかみさん、ありゃダメだよ」さじを投げられたんですよ。 (「浪曲に風が吹く」)

 三味線を見たことも聞いたこともないという、まったくの初心者なのだから、それも仕方がなかった。以後は毎日、たとえ十分でも三味線を持ち、糸にバチを当てる練習を行った。箸を自由に操るのと同じように三つの糸それぞれにバチを当てることが目標だ。それができるようになると、ツボを押さえて澄んだ音を出す稽古に。三味線は天神、中棹(なかざお)、胴の三つに分けて鞄に入れることができる。この天神と中棹のつなぎ目がツボの一つになっている。ここを押さえてバチで弾き、澄んだ音が出れば調子が合っている。濁った音だったら合っていない。福太郎は三味線を弾いた経験はないが、浪曲の修業を通して音色は分かる。合の子節はチャンカ、チャンチャンチャン、チャラリーン、チャンカ、チャンチャンチャン。関東節はテントン、テトン、テントン、テテンテ、テンテ、テンテンテン。膝をたたいて、テンポを刻んで三味線を教えた。

私が半分、師匠なんですよ。「ダメだ、ものにならない」と言われた時は正直、悔しかった。でも、その教室で残ったのは結局、うちの女房だけですね。今は、まあ、私の前だからでしょうけど、「音締めがいい」とかね、「習った師匠が男の師匠だから男みたいなバチさばきだ」とか言ってほめてくれるようになってくれましたね。 (「浪曲に風が吹く」)

 
仲間とともに
 毎月第一日曜日午前11時半から一時間、木馬亭で勉強会を始めた福太郎は1975年(昭和50年)11月に春日井梅光(かすがいばいこう)、天中軒鵬(てんちゅうけんおおとり)、吉田光男(よしだみつお)らと競演会「志峰会」を立ち上げる。梅光は1944年(昭和19年)生まれで1963年(昭和38年)に初代春日井梅鴬に入門。鵬も1944年(昭和19年)生まれで1963年(昭和38年)に二葉百合子に入門。その後、百合子が演じる関東節よりも関西節が自分には合うと考えて四代目天中軒雲月門下に移る。光男は1948年(昭和23年)生まれで1970年(昭和45年)に四代目吉田奈良丸に入門。福太郎が1945年(昭和20年)生まれで1968年(昭和43年)入門なので、芸歴の近い30歳前後の4人が出演とあって注目を集めた。公演は年4回。毎回50人から100人の観客動員が続く。浪曲界の未来を切り開く使命を担った同世代の仲間と試行錯誤をくり返す場が生まれたことは福太郎にとって心強いことだった。

 
芸人伝_玉川福太郎第8回_玉川福太郎 、みね子と稽古
みね子と稽古をする福太郎
 
芸人伝_玉川福太郎第8回_玉川福太郎、郡山美術館
郡山美術館での浪曲公演。曲師は玉川美穂子(現・奈々福)
 
芸人伝_玉川福太郎第8回_玉川福太郎、野球部
日本浪曲協会のユニフォームを着た福太郎

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