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玉川福太郎~第4回「阿漕ヶ浦」

 

「阿漕ヶ浦」

 玉川一門が最初に覚える演目「阿漕ヶ浦(あこぎがうら)」は八代将軍吉宗がまだ徳太郎といった少年時代の物語。紀州の阿漕ヶ浦では殺生を禁じられているのに、徳太郎は毎晩、密漁をして喜んでいた。それに灸を据えたのが後の大岡越前守で、徳太郎も名君に成長していく。
 武士が出てくる演目は御殿などきらびやかな場面が登場することもあるので金襖物(きんぶすまもの)と言われる。町人など庶民の日常生活を描く演目は世話物、森の石松など博徒が主役の話は三尺物あるいは侠客物(きょうかくもの)、泥棒の話は白浪物(しらなみもの)と呼ぶ。なぜ「阿漕ヶ浦」から教わるのかというと、かしこまった表現である武家言葉を覚えるためである。武家言葉を覚えれば、世話物、三尺物も抵抗なく覚えることができるが、世話物や三尺物を先に覚えてしまうと、改めて侍言葉を覚えようとしても覚えにくくなる。そこで忠士の兄弟子のイエス玉川も、玉川カルテットの初代リーダー玉川ゆたかも、この演目から教わっている。忠士も福太郎となって弟子を取るようになった時、この慣例を守った。
 
節まわしと声出しの練習
 節の練習は掃除をしながらも行った。声の上げ下げ、伸ばし方、縮め方、テンポのいい節とゆっくりした節など習得すべきことは多かった。大きな声を腹から出す練習は犬の散歩の時にしていた。根津にある勝太郎邸から坂を上っていくと東京大学がある。その野球場、池之端、谷中の墓地、根津神社境内など、その日の気分で場所を変え、大声を出す練習をした。

 

東大のグランドでは、夜中まで勉強している学生さんがいたのを知らなかったんですね。「変な声を張り上げているのがいるから、うるさくって困るんだ」警察に電話が行きましてね、お巡りさんが飛んできて、「いい加減にして帰んなさい」怒られたことがありましたね。谷中の墓地では「なにがなにして、なんとやら~」とやったら、藪の中からアベックがパーッと飛び出して逃げて行ったんです。こっちだって驚いたですよね。そんな薮ん中でアベックが仲良くしているなんて知りませんからね。 (「浪曲に風が吹く」)


 地方巡業の時は、海や山や川に向かって声を張り上げた。岐阜の山の中では「一人前の浪曲師になったら、お礼にやって参ります」と誓ったりもした。
 当時、二代目勝太郎は離れの部屋で寝たり起きたりしていた。「兄(あん)ちゃんは何てぇ名だい」「忠士です」「いい名前だ。芸人は客に喜ばれなきゃ駄目だ。頑張りなよ」と、よく言われた。その励ましを胸に稽古を重ねるとともに、勝太郎が1969年(昭和44年)8月13日に73歳で他界するまで時間の許す限り看護も続けた。
 寿々木米若(すずきよねわか)には「君は若い立派な師匠を持って幸せだ。努力しなさい」と小遣いをもらった。勝太郎、米若という雲の上の存在の大先輩の激励はつらいことも多い修業生活の憂さを晴らす力となった。
 
滝とよ師匠
 「いいか、三味線の師匠には気を遣い、かわいがってもらえよ。いつ弾いてもらうようになるとも限らないんだから」忠士は三代目勝太郎からこのようによく言われた。三味線の師匠と大喧嘩をして、その後一度も弾いてもらえなくなった人もいたという。「俺はな、昔、一生懸命弾いてもらいたいばっかりに三味線のお師匠さんにアイスキャンディーを買ってやったよ。ところが、いざ本番となって、うなり出そうと思った時、三味線が鳴らないんだよ。おかしいなあと思って、ひょいと横を見たら、三味線のお師匠さんが三味線を横に置いて、アイスをなめてるんだよ。いやになっちゃったよ」
 特定の浪曲師を演奏する三味線奏者を相三味線(あいじゃみせん)という。忠士は、三代目勝太郎の相三味線の滝とよにとてもかわいがってもらった。弟子の方から「お願いします」と言っても、気分次第で稽古をしてもらえなくても当たり前という浪曲界で、忠士はとよから「さあ、稽古だよ。稽古するぞ」と声をかけてもらえただけでなく、食事やお酒も御馳走になった。
 とよは二代目勝太郎も弾いていただけあって、民謡、歌謡曲、小唄、端唄、長唄、なんでも弾きこなせた。
 忠士が弟子入りしてから、日本テレビ「お昼のワイドショー」で、さまざまな分野の有名人の半生を三代目勝太郎が浪曲で語るコーナー「人間シリーズ」が始まった。浪曲だけでなく、司会者のインタビューもあり、人気コーナーとなり、長く続いた。「人間シリーズ」では、群馬県出身の人物なら八木節を、花柳界で遊んだような人だったら都々逸、さのさを入れたりした。それを、とよはいつもやすやすと弾きこなしてみせた。


芸人伝_玉川福太郎第4回_玉川福太郎、山本友次郎
玉川福太郎と山本友次郎

 


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