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玉川福太郎~第11回 浪曲愛

 

浪曲愛
 美穂子は習い事と理解して三味線教室に通っていたが、半年ほどたって行われた木馬亭での発表会で福太郎に「プロになる気はありますか」と聞かれ、「はい」と答えてしまった。これがきっかけで、みね子に三味線を習うようになり、福太郎の熱意に押される形で曲師玉川美穂子として歩み始める。そして浪曲師が語りやすい三味線演奏について思い悩んでいたところ、「浪曲を演じてみれば、浪曲師の気持ちが分かる」と再び福太郎に勧められて浪曲を一席覚えることに。すると「せっかく覚えたんだから、お客さんの前でやってみたらどうだ」と言われ、浪曲師として舞台に立つようにもなる。こうして浪曲の魅力、奥深さに触れるにつれて浪曲師としての活動を本格的に行うようになっていく。

 
芸人伝_玉川福太郎第11回_玉川福太郎、みね子、美穂子
みね子、美穂子の二丁三味線で語る

「徹底天保水滸伝」
 2004年(平成16年)、美穂子は福太郎がさらに飛躍する契機となる公演「徹底天保水滸伝」を木馬亭で5回にわたって開く。福太郎の師匠、三代目勝太郎は2000年(平成12年)10月4日に他界している。勝太郎存命中は玉川派のお家芸「天保水滸伝」は師匠に遠慮する気持ちもあり、ほとんど演じていなかった。美穂子としては福太郎がお家芸をしっかりと継承していることを示し、四代目勝太郎襲名につなげてもらいたいという思いもあったのだろう。
 毎回、「天保水滸伝」を物語の流れに沿って一席ずつ語っていった。初回「繁蔵売り出す」ゲスト・小沢昭一、第二回「鹿島の棒祭り」ゲスト・井上ひさし、第三回「笹川の花会」ゲスト・澤田隆治、第四回「蛇園村の斬り込み」ゲスト・なぎら健壱、国本武春、第五回「平手の駆けつけ」、ゲスト・平岡正明、布目英一。
 毎回のゲストも人々の関心を呼び、この機会に浪曲に触れてみようという観客も詰め掛け、満席が続き、チケット入手困難な公演となった。気力、体力とも充実した福太郎の芸はこの満席の観客をうならせる出来ばえだった。
 翌年も5回公演で美穂子は「浪曲英雄列伝」を企画した。初回「石松三十石船」、第二回「忠治山形屋」、第三回「河内山と直侍」、第四回「青龍刀権次」、第五回「平手の駆けつけ」と行い、昨年同様の大盛況。この二つの企画により、浪曲界の第一人者である玉川福太郎の存在感を広く世に知らしめることができた。

去年の五回の「徹底天保水滸伝」の会も弟子の美穂子が企画してくれたんですが、福太郎になってからは毎年一回ぐらいは独演会やってきたんですがね、この七年、何もなくのんびりしてたものですから、弟子から見て、おもしろくなかったんでしょうね。「『天保水滸伝』の会、やってください」こう言われました。ありがたいです。 (「浪曲に風が吹く」)

 この頃から芝居にも出演するようになる。2004年(平成16年)には小椋佳 作・音楽「歌綴り ぶんざ」に澤孝子、東家浦太郎と一緒に出演した。琵琶、長唄、民謡、ジャズ、ミュージカルの歌手たちと、芝居をしたり歌ったりする作品で、福太郎は悪代官の役だった。2006年(平成18年)にも小椋佳 作・音楽「歌語り 狂雲坊主一休宗純物語」に出演。さらに2007年(平成19年)2月には名古屋・御園座の五木ひろし公演「石松初恋旅」でちょんがれ太郎に扮した。

 
月にむら雲、花に風
 2007年(平成19年)3月、御園座の一ヶ月公演を終えた福太郎のもとに6番弟子、玉川太福が入門する。5月1日にはNHK-FM「今日は一日“浪曲”三昧」に出演。その後も公演をこなし、5月中旬に山形に帰郷して田植え作業を手伝った。23日の午前中、田植え機を運転中、カーブで水田に転落し、田植え機の下敷きとなってしまう。この事故はすぐに地元の新聞社から配信され、午後には新聞各社が事実確認を行っている。関東、関西の浪曲家にも知らされ、皆が無事を祈ったが、午後10時頃に帰らぬ人となったことが伝えられた。

日頃から私も、芸人も楽しく演じて、お客さんにも「楽しかった」と言われるような浪曲をやってかなくちゃいけない、楽しく笑っているうちに、涙がポロリと出た、これが私の理想の浪曲なんですがね。 (「浪曲に風が吹く」)

 豪快な声節(こえふし)を持ち、関東節を次代に伝える大器として期待された入門時。しかし、今の浪曲に最も大切なものは大衆性であると実感し、模索を始める。そして華柳丸の寄席浪曲に出会い、追求を続け、ついに理想とする浪曲を演じられるまでに登り詰めたというのに……。

 
芸人伝_玉川福太郎第11回_玉川福太郎、池袋・書店
池袋の書店での口演。三味線は美穂子。
 
芸人伝_玉川福太郎第11回_玉川福太郎一門会挨拶
玉川福太郎一門会挨拶。左から美穂子、お福、福助、福太郎、みね子、こう福。

 
 
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