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横浜にぎわい座は、落語、漫才、大道芸などの大衆芸能の専門館です。

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国本武春~第7回 三味線ブルーグラス

 

三味線ブルーグラス
 渡米前にプロのアーティストだというプロフィールを提出していたので、「ETSUプライドバンド」という学校で一番の実力バンドに加入させられた。毎週のように演奏会があり、武春は三味線で参加した。どこへ行っても「ジャパニーズバンジョー」と呼ばれ、注目の的だった。演奏を重ねるうちにバンジョーとの役割分担もでき、今までのブルーグラスにはなかった三味線入りのアンサンブルが出来上がる。
 留学期限の一年が迫ろうとした2004年(平成16年)5月、プライドバンドのメンバーと卒業生、そして武春という計5人でバンド「The Last Frontier」を結成した。バンド名は三味線でブルーグラスを演じる様子を「最後の開拓者」とたとえたもの。最初に行ったのが記念アルバム「Appalachian Shamisen」の製作。タイトル曲は武春がアパラチアン山脈を毎日のように眺めながら作曲した、初めての三味線ブルーグラス曲である。
 

(CDアパラチアン三味線、右:CD裏面 写真はにぎわい座)
 
ライブの魅力
 留学の動機となった日本とアメリカのエンターテインメントの楽しみ方の違いについては、観客の主体性の違いだと分かる。
 
 アメリカの観客は「俺が、私が楽しんでいる、楽しむために来ているんだ」という、あくまでも自分主導の楽しみ方。それに対して日本のお客さんは高いお金を払っているのにも関わらず「見せていただいている」という実に低姿勢な楽しみ方。
では文句は言わないのかというと文句は言う。絶対言う。しかしそれは終わってからコッソリと。
一方アメリカはというと、気に入らないとなったらスグ、その場でブーイング。
「言わなくてもわかっているでしょう?」という単一民族の日本と「言わなきゃ俺の気持ちが伝わらない」という多民族のアメリカ人の違いが客席の反応に現れてきたんだと思います。
『待ってました名調子!』

 
 アメリカでの熱狂的な反応はテレビとはまったく異なるライブの空間がこの国には存在していることを示すものだった。かつての日本にもそのような場が多くあり、浪曲においても耳の肥えた聞き上手の客が芸人を叱咤激励して育てていた。舞台と客席はライブのワクワクした楽しみと興奮に満ちた関係にあるべきだと教えてくれた留学だった。
 
活動の広がり
 帰国の翌年の2005年(平成17年)、The Last Frontier のメンバーが来日し、全国ツアーを行った。当館でも6月1日に「開港前夜祭 国本武春&ザ・ラストフロンティア」公演が行われた。2階席まで空席なし。大入り満員の中で軽快なブルーグラスの音色が響き渡った。メンバーたちは気さくで、合間のトークも面白い。もちろん英語なので、それをすべて理解できる観客とそうでない方とに分かれたが、英語が分からなくても楽しさは伝わり、しばしば爆笑が起こった。まさに舞台と客席が一体化した空間が作られた。激しい拍手とスタンディングオベーションも起きた。満員の観客が全員立ち上がるのだから壮観な眺めであった。
 こうして、活動は以前にも増して多岐にわたっていく。そしてこの年の芸術選奨文部大臣新人賞受賞となる。
 

(凱旋公演チラシ・色紙)
 
病魔との闘い
 旺盛に仕事をこなしていた2010年(平成22年)12月、高熱が続き、入院を余儀なくさせられる。2011年(平成23年)1月末には退院の見込みとなったが、脳にウィルスが入ったと診断され、新しい台本が覚えられないなどの障害が見られた。リハビリを重ねて、その年の5月1日に木馬亭定席で舞台復帰。翌日の国立演芸場での「大演芸まつり」にも出演し、両日とも『佐倉義民伝』を口演。翌週の8日は当館の「爆笑演芸バラエティ」で弾き語り『加藤清正伝 二条城会見』などを演じる。いずれも後遺症を感じさせぬ出来栄えだった。
 その後も精力的に活動を続け、2012年(平成24年)1月には自伝『待ってました名調子!』の出版、2月には松尾芸能賞優秀賞受賞、そして4月には前年行えなかった浪曲生活30周年の公演を「国本武春31周年 武春まつり」とし、木馬亭において8日間連続で行って完全復活を印象づけた。
 さらに、TBSドラマ「水戸黄門」が2011年(平成23年)に終了したのを受けて、黄門様で地域を盛り上げようという水戸市と武春の共同企画「浪曲・水戸黄門漫遊記」が2013年(平成25年)に立ち上がり、3年連続で公演が行われる。1年目が「水戸黄門青春篇(弾き語り)」、翌年が「水戸黄門漫遊記〜雲井の仇討ち」、最終年が「水戸黄門漫遊記〜散財競争」。浪曲2席は関東でケレン読み(お笑い専門)として活躍した佃雪舟の得意ネタを武春流にまとめ、笑いの多い楽しい浪曲に仕上げたもので、CD化もされた。雪舟は演目の最後の節であるバラシの部分でカスタネットを打って盛り上げるというユニークな演出を行ったことでも知られるが、武春もこの演出を取り入れて愉快に一席を終わらせたこともあったという。
 また2013年(平成25年)12月15日には亀戸のカメリアホールでの「大忠臣蔵」で弾き語りの新作『堀部安兵衛』を披露している。
ところが、冬になると体調に異変を感じることが毎年のように起き始める。そして2015年(平成27年)12月12日、公演のリハーサル中に倒れ、意識が戻らぬままクリスマスイブの早朝、天に召されてしまった。 
 
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