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横浜にぎわい座は、落語、漫才、大道芸などの大衆芸能の専門館です。

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第5回.快進撃

 

女性心理を描くコント
 第一週目の審査員は漫画家の高信太郎、演芸評論家の山本益博、コピーライターの糸井重里、スポーツニッポンの花井伸夫、演芸作家の神津友好。一人一人がだるま食堂かトミーズのどちらかに一票ずつ投じた。結果は三対二で、だるま食堂が第一週勝ち抜きを果たした。だるま食堂のコントについて、糸井重里は「どこかで見たことがあるようで、見たことのない笑いです。音と動きで見せていくアニメのような笑いといえます」と評した。また司会の西川きよしは、演出家をつけてコントを作っていけば大きく育つコンビになると思うので、寄席の世界に来て色物としてこじんまりするのは避けるべきだというアドバイスを与えている。
 第二週は勝ち抜きチャンピオンとして出演した。挑戦者はコンビ結成半年で上方漫才コンテスト優秀賞を受賞したシンデレラエキスプレス。だるま食堂はNHK新人演芸コンクールで披露した「あなたは誰?」を演じた。十年前の自分と十年後の自分の意見の対立に現在の自分が翻弄されるSFタッチのコントである。十年前の自分の押し倒すと、現在の自分や十年後の自分も倒れてしまうといった明快な笑いでスタジオは第一週よりも大きな笑いに包まれた。「このような発想がどこから生まれるのか」と審査員たちを驚嘆させ、五対〇で、だるま食堂が勝利した。審査員の花井伸夫は「恋人と深い関係になりたいと願う婦人雑誌の告白もののような内容もあれば、純愛を大切にしたいという少女小説の要素もあり、女性の複雑な心理がよく描けている」と評価した。
 第三週は女性コントコンビのエンジェルと対戦。男性漫才との勝負だった第一週、第二週とは異なる空気が会場に漂った。だるま食堂の演じたコントは「先生」。さとう演じる根本先生は赤い服を着て明るい性格だが、星野演じる山下先生はグレーの服を着た暗い性格。森下教頭は山下先生を明るくしようと試みる。三人の役割と性格設定が的確で、特に星野のコミカルな動きが際立って笑いの連鎖が起き、だるま食堂が勝ち進んだ。
 四週目は三人組の男性コントグループ、ジョージボーイズが挑戦者。確かな歌唱力と軽快な動きで、新宿、渋谷、新小岩のカラオケ店の相違を描き分けた。だるま食堂のコントは「歌う看護婦」。医師が食中毒にかかってしまったため、看護師三人で手術を行なう様子をミュージカル仕立てで演じる。くしくも歌ネタ対決となり、歌唱力も笑いも互角の様相を見せたが、三対二で、からくも、だるま食堂が勝利した。
 さて五週目。だるま食堂はコント「社員旅行」を演じた。森下は温泉に泊まるバス旅行を、さとうは若い男性も参加するテニス旅行を企画し、星野はどちらに行くべきか決めかねてしまう。三人の個性が火花を散らすスピーディーな展開の中、女性ならではの心情を巧みに描く。独特の笑いを作り出し、再び勢いを取り戻して勝ち抜いた。
 
 
変幻自在なコント
 六週目は「電車」。地下鉄丸ノ内線のラッシュアワーをコミカルに描く。満員の車内で体の自由が利かなくなったり、次の駅で降りようと思ったら出口が思っていた側と反対だったりなど、満員電車での「あるある」が盛り込まれている。その一方で、行く手をはばむ男性の頭をつかんでどかすというナンセンスな笑いもある。審査員の演芸作家、大野桂は「日常の中に非日常を取り入れて笑いを作っている」と脚本を評価し、糸井重里は「どのようにこのコントを作ったのか手法が見えない。このコンビに勝てる挑戦者はもう現れないのではないか」と絶賛した。こうしてまたもや五票の満票で、だるま食堂が勝利したが、花井伸夫からは「地下鉄丸ノ内線の車内を描いているのだったら、丸ノ内線ならではの描写がほしかった」と注文がつく。しかし、この意見について「それはぜいたくですよ」と糸井が揶揄した。また、神津友好は「満員電車の中で押される様子を三人が体を密着させて表現したのはすばらしいが、三人がすべて並列の動きをしている。だるま食堂の本来の味である三人のからみがもっとほしい」と講評した。さすがに六週目になると審査員からの注文も厳しくなってくる。
 七週目は「おーい、誰かー」。吹雪で視界をとざされた三人の登山者が自分以外の存在に気づかず、誰かいないかと同じセリフを順々に発したり、探しまわったりするが、他人の存在に気づかないままとなる内容。
 「笑いを生み出すための確固たる論理に基づいて作られている台本に、緩急自在の演技によって笑いが増幅されており、今までに見たことのない革命的なネタだった。今日のだるま食堂にはどんな挑戦者でも勝てないのではないか」とすべての審査員に絶賛された。前週には厳しい注文をつけていた審査員も見事なできばえに舌を巻いた形となり、文句なしの五票満票で次週に進む。
 八週目は「火事だ~!」。自宅が火事になり、母親と娘たちがあわてふためく。激しく動き回って、さまざまな笑いを取り入れ、勝者となる。しかし、火事が燃え盛る様子が伝わってこず、母娘のドタバタ風の笑いしか印象に残らなかったという不満など厳しい批評が四人の審査員から寄せられた。高信太郎のみが「毎回味わいの異なるネタを出してくる引き出しの多さに驚かされる。大阪なら吉本新喜劇、東京だったら大宮デン助のような家庭劇の雰囲気が伝わった」と好意的な感想を述べた。
 そして九週目は「ハッピーバースデー」。パフォーマンスをやっていた頃に創作した作品で、桑田佳祐の「ハッピーバースデー」の曲に合わせて、森下と星野が男役になり、さとうを奪い合うという、コミカルなパントマイムの動きのみで表現している。森下は、汎マイム工房でマイム修行の経験があり、星野はヨネヤマママコを師と仰ぎ、全身タイツで世界中を巡る事が夢だったのでパントマイムには馴染みがあった。さとうは、ヒロインである自分の衣裳のリボンからスカート、靴までピンクの水玉の布で手作りし、可愛さを表現した。審査員の叱咤激励を感じながらも健闘し、勝ち抜くことができた。
 
 
封印を解く
 とうとう十週目にたどりつく。とここで、当初、十本はあると思った得意演目が九本しかないことに気づいた。そこで山口に「飛び道具だ」と言われて封印していた「ボインボインショー」を悩みながらも思い切って演じることになった。
 
 「飛び道具」には「まっとうではないこと。異端。邪道」といった意味合いがあります。山口兄さんもあまりよい印象を持っていないと思い、演じるべきではないと考えていました。(三人談)
 


 
 この時のボインボインショーの扮装と現在の扮装の大きな違いはカツラだ。現在使用しているカツラはウレタンで型を作り、そこにポリプロピレンのロープを貼って髪の流れを出し、蛍光色の塗料を塗ったもので、人形劇の人形を製作しているプロに発注したものだが、この時はポリエチレンの荷造りヒモを髪の毛にした自分たち手作りのカツラをかぶっていた。ダンスが激しくなると髪が乱れ、野性味が感じられるので印象も異なっている。
 第九週までコントを見せてきたのに、十週目で意表をついて、この姿で登場したのだから、三人が現れた時点で場内に大きな笑いが起こった。その勢いに乗って、笑いをまじえた歌とダンスを見せていく。そのパワーに笑いの量が衰えることがない。審査員も司会の西川きよしも、ただただ笑うばかり。高い評価を受けて十週勝ち抜きチャンピオンに輝く。
 事務所もだるま食堂売り出しに熱を入れ、新しく宣材写真も作られた。ラッツ&スター、尾崎豊などを送り出した「伝説」のライブハウス「原宿ルイード」で単独ライブも開いた。CMや営業の仕事も多くなり、再びボインボインショーを始める。
 コント山口君と竹田君を中心とした「山竹一座」のホテルなどでの営業の仕事もあった。
 
 山口兄さんには、芸の指導から仕事の世話、食事の面倒までしていただき、「俺はお前たちの米びつじゃねえ」とまで言われました。竹田兄さんには呑みに連れていってもらい、お酒の飲み方を教わりました。兄さんたちと私たちは師弟といえる関係でしょうが、「師匠と呼ぶな、お兄さんと呼べ」と言われて、その通りにしています。(三人談)
 
                       
 
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