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国本武春~第1回 浪曲愛

 

浪曲愛
 三味線の演奏に載せて物語を歌い語る、弾き語り。そのメロディーに浪曲、民謡などの邦楽だけでなく、ロックやバラード、リズム&ブルースなども使用する。オリジナルソングの作詞作曲も多数あり、ブルーグラスバンドも結成。さらにドラマや芝居、子どもたちに日本語を楽しく伝えるNHKテレビ「にほんごであそぼ」に出演するなど活躍は多岐にわたる。しかしその根幹にあるのは浪曲への愛。名人上手たちの節まねが達者なのも浪曲が好きだからこそ。一人ひとり異なる個性的な節の特徴を巧みにとらえていた。浪曲が再び脚光を浴びることを夢見て活動を続け、浪曲の多様性を示そうと独自の芸を作り上げた。
 
 国本武春の自伝『待ってました名調子!』はアールズ出版より2012年に発行された。NHK総合テレビの番組を書籍化した『トップランナー vol.4』(NHK「トップランナー」制作班・編。KTC中央出版。1998年発行)所収「浪曲ルネッサンスの立役者-国本武春」、『小沢昭一がめぐる寄席の世界』(小沢昭一著。朝日新聞社。2004年発行)所収「国本武春 夢は、浪曲を「ROU MUSIC」に」も武春の活動を知る手掛かりとなる。さらに浪曲専門誌『月刊浪曲』や演芸情報誌『東京かわら版』の記事も参考になる。

 
浪曲師の家庭に生まれて
 国本武春の本名は加藤武。1960年(昭和35年)11月1日に現在の千葉県成田市である香取郡下総町に生まれた。父親は四代目天中軒雲月の弟子の天中軒龍月。しかし武が生まれた頃には浪曲師を辞めていた。母親は国本晴美。愛嬌と人情味あふれる人柄そのままの芸風で、観客だけでなく、浪曲師仲間からも慕われており、現在も現役だ。ところが武が幼少の頃、晴美が家で浪曲の稽古をすることはなかったので、武は子守唄代わりに浪曲を聞いて育ったわけではない。
それでも子供の頃から歌も楽器も得意だったし、六年生の学芸会で「弥次喜多」の芝居を演じて喝采も受けた。それならばと、晴美は持ちネタの歌謡浪曲「清水の鬼吉」を小学校卒業の謝恩会で武と掛け合いで行うことを提案した。晴美が清水次郎長、武が鬼吉。武もセリフだけでなく歌も歌った。評判は上々だったが、これが逆効果となり、武はもう浪曲はやりたくないと思うようになる。

(国本晴美、天中軒龍月)
 
ブルーグラスとの出会い
 海宝弘之。俳優、声優として現在も活躍している彼は武の中学時代の同級生だった。海宝をはじめとする友人たちを通じて武はビートルズやフォークソングなどさまざまな音楽に目覚める。
武がブルーグラスに出会ったのは成田山新勝寺の参道にある「マキノ書店」での立ち読みがきっかけだった。学校が成田山の近くにあったので「マキノ書店」に立ち寄ることも多かった。FMラジオが掛かっている店内で立ち読みをしていると軽快でスピード感あふれる音楽が流れてきた。店にあった雑誌「FM fan」の番組欄を調べて、この音楽がブルーグラスであり、演奏者はブルーグラスの父と言われるビル・モンローだと分かった。ここからブルーグラスに夢中になる。そして中3の時、ビル・モンローが来日することを知る。コンサート会場は芝の郵便貯金会館、現在のメルパルクホールである。開演の3時間以上前から会場の前で待った。もちろん、他にだれもいない。
 
「ここじゃないのかなぁ……。今日は中止かな~」
  不安で一杯の田舎の中学生が会場の前をうろうろしていると、会場の前に1台のタクシーがスーッと止まり、なんと中からレコードのジャケットでしか見たことのないビル・モンローとブルーグラスボーイズの名フィドル(バイオリン)プレーヤー、ケニー・ベイカーが出てきました。
  興奮した私は、学校で習ったばかりの流暢な英語で、
 「は~い、ビル、ゆー・あー・ぐれいと!」
  するとビルは、
 「Oh! Thank you」
 そういって、中3の私に握手をくれました。
 んもう、夢のような一瞬です。  『待ってました名調子!』

 
 小遣いを貯めて、ブルーグラスの楽器、フラットマンドリンを買い、ブルーグラスに明け暮れる毎日を送るようになる。ちょうどその頃、民謡ブームが起こり、海宝の父親が民謡教室を始め、武も海宝も津軽三味線を習うことになる。津軽三味線と民謡の稽古をした後、2人でブルーグラスの練習をするという日々が続く。老人ホームや敬老会で開かれた民謡教室の発表会に武たちも参加したが、どうせやるならブルーグラスを演奏したいという思いが募り、バンド「寿ブラザーズ」を結成する。浅野という後輩をメンバーに加え、海宝がバンジョー、武がマンドリン、浅野がギターという編成となる。敬老会や老人ホームの慰問だけでなく、高校の文化祭でも演奏し、人気を博した。ブルーグラスは基本的には英語で歌うが、敬老会では受けないので、「銭形平次」や「水戸黄門」の主題歌に寸劇を入れて歌ったり、物まねしたりというコミックバンドのノリで演奏した。
 

第2回

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