4.浪曲Q&A
Q1 浪曲の三味線は舞台の上手か下手のどちらかで演奏するという決まりはありますか?
浪曲の三味線は舞台の上手で演じるという決まりがあります。寄席のお囃子は舞台の使い勝手で上手にも下手にもなります。
出演者の登場も同様です。浪曲の三味線奏者である曲師は出演者が上手から登場しようと下手から登場しようと必ず上手側にいます。
Q2 浪曲の三味線を衝立で隠すことがあるのはなぜですか?
曲師(浪曲の三味線奏者)は浪曲の伴奏者というわけではなく、力強く弾いたり、間合いを調節したりして、浪曲師を引き立てる役割をしています。そのため、常に浪曲師の方を向いて浪曲師の動きに神経を集中させる必要があるからです。
Q3 テーブル掛けとは何ですか?
浪曲の演台に掛けた布のことです。「ブル掛け」と呼ぶ人もいます。
演台、下手の湯飲み台、背後の椅子の三つに掛ける場合は「三点セット」、広い会場では舞台の左右に松の盆栽を置き、その台にも布を掛けて「五点セット」とします。
一時は舞台背面高くにペナントも飾ったこともあったとか。
浪曲がテーブル掛けで飾り立てる理由は、大流行した時代には劇場だけでなく、民家の大広間、体育館などさまざまな場所で演じられていたからです。
テーブル掛けがあれば、どこでもたちまち舞台としての体裁が整えられます。ちなみに図柄で圧倒的に多かったのは富士山です。
Q4 浪曲の拍子木を打つタイミングについて教えてください。
浪曲師の登場、演目の始まりと終わりに打つのが基本で、「柝(き)を打つ」と言ったりします。
現在は浪曲師の登場に柝を打つのは当たり前になっていますが、1970年代頃までは巡業先などでは柝で登場するのは座長だけ、他の芸人は笛の「ピーッ」という音で登場しました。
Q5 浪花節と浪曲の違いは?
浪花節は明治になって東京で生まれた呼称、表記です。大阪では昭和の初めまで浮かれ節という呼称が一般的でした。
また九州では祭文(さいもん)という名が主流でした。浪曲は大正になって生まれた名といわれています。浪花節と浪曲は広義には同じものです。
現在一般的な、立って演じるスタイルは浪曲という呼称が普及した頃に定着したようです。読み物も浅野内匠頭の仇討ちを家来が行う「義士伝」が最も好まれ、演目も多いです。
こうした立派で堅いイメージを好む人は浪花節ではなく、浪曲という呼び方を大事にしています。
浪曲の新スタイルは桃中軒雲右衛門の台頭が大きな影響を及ぼしています。「雲右衛門以後」という言葉もあるくらいです。この「浪曲」の呼称にこだわったのが松平国十郎先生です。
「雲右衛門以前」の浪花節の時代は釈台を置いて座って演じられていて、泥棒や探偵ものなどの軽妙洒脱な読み物が喜ばれています。小沢昭一さんや新内の岡本文弥師匠は浪花節の名称を好まれました。
この文章の書き手の実体験を申しますと、文弥師匠に「浪曲」と言って「私は雲右衛門は嫌いです」と言われ、国十郎師に「浪花節」と言って「浪曲と言いなさい」と叱られました。
Q6 演歌と浪曲の違いは?
三波春夫、村田英雄、二葉百合子など浪曲出身の演歌歌手は多くいます。また、浪曲の中に演歌が入る歌謡浪曲というものもあります。
しかし、現在の演歌は浪曲から生まれたのではなく、昭和の初めに西洋音楽の勉強をした作曲家や歌手によって生み出されたといわれています。
現在の浪曲師にも演歌を歌う人はおります。ただし、そうした浪曲師のどなたもがおっしゃることが演歌と浪曲は発声法が違うということです。
専門的なことは分かりませんが、演歌を長く歌っていると、浪曲の発声がしにくいとまでおっしゃる浪曲師もいます。
Q7 浪曲の三味線奏者、曲師になるのには?
関東なら日本浪曲協会の三味線教室に通うか、ベテラン曲師に弟子入りするか、二つの方法があります。大阪は曲師への弟子入りしかないようです。
浪曲の三味線は浪曲師が唄いやすいように、一テンポ早く弾き出したり、力強いバチ音をたてたり、腹の底から出す勇ましい掛け声をしたりします。単なる伴奏ではなく、浪曲師との掛け合いで芸を作り上げていきます。浪曲師との呼吸が合うかが求められます。そのため、プロの曲師として独り立ちするには舞台で実際に曲師をつとめるという実地経験が不可欠です。
Q8 合三味線(あいじゃみせん)とは?
特定の演者専属の曲師のことです。かつては浪曲でも契約で専属の曲師となることがありました。合三味線になると、浪曲師から、その浪曲師が使う紋でこしらえた紋付が支給されました。衝立で隠れていても曲師は紋付で演奏したのです。現在、合三味線といえるのは、東家一太郎と東家美、真山隼人と沢村さくらなどです。
Q9 浪曲の三味線の特徴は?
義太夫節や津軽三味線のような太棹(ふとざお)という大きめの三味線を使い、バチは胴をたたくように扱って力強い音を出します。寄席のお囃子で使うのは細棹(ほそざお)です。太棹は細棹と聴き比べると、重厚な音色であることが分かります。
Q10 浪曲番付とは?
浪曲師の人気や実力を相撲の番付にならって、横綱、大関、関脇といった序列をつけて一覧表にしたものです。明治時代から1980年代くらいまで作られていて、広沢虎造や寿々木米若など有名演者の人気や実力の変化が把握できます。ただし、特定の浪曲師の旅興行でお土産用に売られていたものは、当然、その浪曲師を上位の目立つ位置に据えてあります。ですから、人気や実力を厳密に知るための資料にはなりません。それでも、浪曲公演の土産として人気があり、若手浪曲師の小遣い稼ぎになったということです。
Q11 尻三とは?
浪曲で最終の出番の演者の二つ前の出番のこと。尻から三番目だから。浪曲では仲入りの演者を重要視する傾向はあまりない代わり、「尻三」には実力のある演者を出演させます。「小モタレ」とも言います。
Q12 モタレとは?
一番最後に出る「トリ」の演者の一つ前の出演者。トリの演者の邪魔をしない芸が喜ばれます。かつては笑いの多いケレン読みの芸人が出演しました。
Q13 ケレン、ケレン読みとは?
「ケレン」は 歌舞伎や人形浄瑠璃では、早変わり、宙乗りなど奇抜な演出を言いますが、浪曲では笑いの芸を言います。また、笑いのある浪曲を専門に演じる芸人を「ケレン読み」と言います。